東京高等裁判所 昭和52年(ネ)1064号 判決
控訴人は、被控訴人は本件保証書(甲第四号証の一)に押印することにより訴外会社の控訴会社に対する前記買掛代金等の取引に関する債務について連帯保証した、と主張する。
1 先ず、本件保証書が作成された前後の経緯についてみると、≪証拠≫によれば、(一)訴外会社は、医薬品、工業薬品、食料品等の販売などを目的とし、資本金は一〇〇万円で被控訴人の長男青木角雄が社長であるところ、控訴会社は訴外会社とは本件うなぎの売買が初めての取引であり、昭和五〇年八月九日付売買までは現金取引であったが、その後は手形決済となり、取引高は別紙一覧表記載のとおり短期間内に急激に増加したこと、(二)控訴会社は、同年一〇月初め同業者から訴外会社が倒産のおそれがあると聞き、同月八日その経理内容を調査して資金繰りがひっぱくしている事実を確かめ、警戒の念を高めていたところ、同月九日角雄から、同月二二日及び二三日満期の約束手形額面合計金三五九九万七〇〇〇円の支払期日を一、二か月延長するよう求められたため、訴外会社の取締役で角雄の父である被控訴人が訴外会社の買掛代金債務について保証しないかぎり応じられない旨回答したこと、(三)その後も控訴会社は角雄に対して被控訴人の保証を求めていたところ、同月二〇日角雄から、翌二一日に被控訴人の保証書を差し入れる旨の回答がなされたので、表題(保証書)、本文(保証文言・・・「東京都小平市仲町二三に本店を置く青木産業株式会社が貴社より台湾産活鰻等を、継続的に仕入することに因り、同社が現に負担し、又は将来負担することあるべき買掛債務、手形債務、借入金、被立替金等の債務並にそれ等に関連して負担する諸債務につき拙者は同社と連帯してその履行を保証します。」)、宛名(控訴会社)をタイプし、債務者及び連帯保証人欄のみを空欄とした書面一通を控訴会社において角雄に交付し、連帯保証人欄の署名押印は被控訴人が自らするように念を押したこと、(四)翌一〇月二一日午前一一時ころ控訴会社の担当課長が保証書を受取るため訴外会社に赴いたところ、同日付の被控訴人の印鑑証明書(甲第四号証の二、被控訴人が自ら申請して交付を受けた。)と共にすでに連帯保証人欄に被控訴人名義の記名、押印のなされている前記保証書(甲第四号証の一)を角雄が提出したため、右課長は被控訴人に記入部分を確かめるべく直接に面接することを求めた。しかし角雄から、被控訴人は旅行のため不在であるという理由で断られたため、やむなく訴外会社総務部長村上幸雄の右記入部分は被控訴人の署名押印である旨の確認書(甲第四号証の三)を受け取ったこと、(五)控訴会社は、以上により被控訴人が本件保証をしたものと信じ、角雄の要望に応じて前記手形二通の支払期日をそれぞれ二か月延期したこと、以上の事実が一応認定できる。
2 次に、本件保証書の連帯保証人欄の記名押印部分が作成された状況についてみると、≪証拠≫によれば、被控訴人は訴外会社の取締役ではあるが経営にはなんら関与しておらず、本件うなぎ取引の内容についても承知していなかったところ、角雄は被控訴人に対し、訴外会社のために使用する旨告げて建物新築関係書類に同人の押印を求めた際、これにあわせて本件保証書をなんら説明を加えることなく差し出し、被控訴人は他に提出する書類であることを知りながら本件保証書の記載内容を確かめることもなく一括して右書類に押印して角雄に手交し、同保証書中の被控訴人の氏名は角雄が記入したこと、以上の事実が一応認定でき、≪証拠≫中における、前記被控訴人名義の押印は角雄が盗印したものである旨等の右認定に反する記載・供述部分は、前後相違しあるいは角雄証言のごときは前記印鑑証明書も自分が盗み出した被控訴人の印鑑をもって交付を受けたとする明らかな虚偽を含むものであり、前掲各証拠に照らして到底採用できない。
3 以上の認定によれば、控訴会社が角雄に対して本件保証書の書面を交付したことは、同人を介して被控訴人に対する保証文言どおりの内容の連帯保証契約締結の申込であり、被控訴人が同書面に自らの印鑑を押印して同書面を角雄に手交したことは、その内心の意思はともかく、外部的・客観的には、同書面を角雄に手交することにより、同人を介して控訴会社に対して前記申込に対する承諾の意思表示をしたことになるものと解するのが相当である。被控訴人がその内心の意思において本件のごとき内容の保証をする意思を有していなかったとしても、いやしくも判示のとおり自ら印鑑を押捺している以上、意思表示をしていないということはできず、意思の欠缺又は瑕疵についてなんら主張・立証のない本件においては、被控訴人は、右承諾により連帯保証人として保証文言どおりの責任を負うというのほかない。
(田中 宮崎 岩井)